どうしても分かってほしい時に
村上春樹氏の旅行記
「もし僕らのことばがウイスキーであったなら」を読んだ。
奥さんの陽子さんが撮影した写真とともに
きれいに編集されている文庫本(新潮社)です。
村上春樹さんといえば、
今や、ノーベル文学賞受賞候補の筆頭?にも
挙げられる世界的な作家ですが、
私は、小説などは、
世界観というか人生観というか
表現が深すぎてついていけない、というのが
正直な思いです。
でも、旅行記なんかは、
ラフな感じで書かれていて、
しかも、文章が読みやすく、
真似のできない比喩表現がちりばめられているので
とても勉強になります。
★たとえば……
「地図を開いて眺めてみると、
愛想のないつるりとした海岸線をもつ東海岸とは
対照的に、
スコットランドの西海岸には、
様々に魅力的なかたちをした島嶼がちりばめられている。
まるで天の上のほうにいる誰かが筆をふるって、
景気よく滴をばらまいたように」
スコットランドの海岸線を説明するのに、
こんな表現は、なかなかできないと思います。
★それと、ウイスキーの味を表すのに、
音楽をからめるところも、
村上氏ならでは……。
「独特の、少しくせのある香りがする。
磯くさい、潮っぽい----というのが感覚的に
近いかもしれない。
普通のウイスキーの香りとはずいぶん違っている。
その『くささ』こそがアイラのウイスキーの
基調になっている。
バロック音楽でいう通奏低音である。
その上に、様々な楽器の音色とメロディーが
かぶせられていくわけだ」
文章で例えているところもあります。
★「たしかにラフロイグには、まぎれもない
ラフロイグの味がした。
10年ものには10年ものの頑固な味があり、
15年ものには15年ものの頑固な味があった。
どちらも個性的で、おもねったところはない。
文章でいえば、たとえば、
アーネスト・ヘミングウェイの初期の作品に
見られるような、切れ込みのある文体だ。
華麗な文体ではないし、むずかしい言葉も
使っていないが、真実のひとつの側面を
確実に切り取っている」
さらに、音楽にも例えているのが次の表現。
「音楽でいうならば、
ジョニー・グリフィンの入った
セロニアス・モンクのカルテット。
15年ものは、ジョン・コルトレーンの入った
セロニアス・モンクのカルテットに
近いかもしれない。
どっちも捨てがたく素敵だ。
そのときどきの気持ちで好みがわかれるだけだ」
比喩というのは、
どうしても、分かってほしいことがあって、
だけど、そのまま表現することは難しい時に、
ああいえば伝わるだろうか、こう言えば……
という気持ちの発露なんだなと思いました。
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